出材について
⑤そろばん(当地方での呼び名)の架設


 木修羅のほかにも、間伐材など少量の丸太材搬出のために、「そろばん」を架設することもあった。図③-2のように、材料には1枚当たり12~15mの長木を大小3~4本用意して、太い木を外側に、細い木を内側に樋状に並べ、立木に取り付ける。長木を使うので修羅の架からない急傾斜地にも設置できるが、滑りすぎて滑走路から飛び出したり、スピードが出すぎると着地付近で材に損傷が出たりするので、途中に何箇所か吊り木等をして、ブレーキとした。
⑥木馬道


 木馬道は水平を限度として下り勾配に設置する(図④)。谷沿いの地形は特に傾斜の緩い所や、あるいは急な所など変化が多い。木馬道の架設では、地形の変更に少しでも手を加えることは許されないので、地形そのものに応じて木馬道の構造を変えながら組み立てていく。
したがって設計図も図面もないので、ここでも経験と「カン」がものをいう。傾斜の急な所では材質の軟らかいスギの丸太をバン木として使用し、水平またはそれに近い場所では図⑤にもあるように、「カラバン」式木馬道を取り入れバン木には堅い材質の木を使うなど、摩擦を大きくしたり、あるいは小さくしたりして、木馬道の運行が容易になるよう、いろいろと工夫を加えた。
丸太を川水で流送するのに適した地点まで到達すると、その箇所を川縁の土場(図⑥)として定めた(出材経費請負範囲は、伐採地からこの川縁の土場まで)。
さて、修羅および木馬道、川縁の土場すべての架設作業が完成すると、10数名の作業員は、山落とし、修羅とり、木馬曳(ひ)きとそれぞれ分担を決めた。
体力と腕に自身のある若者は木馬曳きを希望し、愛用の木馬を担いで現場に集まった。まず、「馬調べ」といって木馬を滑らす部分(ハカタと呼ぶ)を細く丸みが付くように鉋(かんな)で削り、菜種油(灯し油)を塗りながら焚火(たきび)で焦がさないよう丹念に焼き込み、ご台を取り付け、立つ棒、中締めなどを調整した。この作業に約半日は要した。
●木馬についての説明(図⑥):木馬の材料はカシ類がよく、一般にアオガシを最も多く利用した。ほかにもイチイガシ、ウバメガシなども用いたが、イチイガシ少し軟らかいので消耗しやすく、ウバメガシは堅すぎてやや使いにくい欠点があった。
 その作り方は、材の中心部より見て皮目に近い部分をハカタ(バン木に接する面)にするように、厚みを1寸2分(約3.6cm)取り、幅は4寸(約12cm)、その上側の厚さは1寸(約3cm)にし、長さ8尺5寸ぐらい(約2m57cm)を縦方目に製板した。
 組み立て方は、材の根元の部分を前にし、幅は前部1尺1寸(約33cm)、後部1尺4寸(約43cm)の八の字形に、立てりも少し台形に組み立てた。
かなり大きい1本の原木からでも、高級品はせいぜい2台分(4枚の板)しか取れなかった。