このたび、木材業界ならびに関係者の方々の大変な御努力により、本県としてはじめての「木材史」が発刊される運びになりましたことは、業界の皆様方は勿論、木の国といわれるほど木にゆかりの深い郷土に住む私どもにとっても、まことに意義深いことでございまして、ここに心からお祝いを申しあげます。
申しあげるまでもなく、本県に対する「木の国」の呼名は、古く神代の時代から云いつたえられております。このことは全国的にも有名でありますが、これは単に山が多いということだけでなく、温暖多雨という気象的にもめぐまれた土地柄のため、古来から林業がさかんであったという事情をものがたるものでありましょう。そして、今日においても、紀州の山々は美しい緑におおわれ、昔ながらの伝統を脈々と受けついでいることは云うまでもありませんが、さらに和歌山市をはじめ田辺市、新宮市等、県下各地に全国有数の製材工場がさかえ、しかも和歌山港と田辺港に入る米材の量が、全国輸入量の10%にも達するほどに木材産業が伸びてまいりましたことは、本県が文字通り木の国としての新しい発展をつづけてきたことを示すものでありまして、まことに御同慶に堪えないところでございます。
しかしながら、最近の経済、社会諸情勢の急速な変化にともなって、木材をとりまく諸条件も大きく変りつつあることが痛切に感じられる昨今でありまして、こうしたところに時代のうつりかわりの激しさを、あらためて認識させられるものであります。
10年前には、木はあればいくらでも買いに来てくれると云う時代でありましたが、今はどうすれば木材が使われるか、どういうシステムにすれば需要をひろげられるか、流通、販売面まで考えて積極的な努力をしなければ、木材以外の新建材の大巾な進出を許すおそれがあるという、木材にとってまことにきびしい時代がきていることを痛感するわけであります。それだけに業界の皆様方の御労苦は、ほんとうに大変なことと存じますが、どうか木の国の面目にかけても一層の御努力をいただき、本県木材産業のため格段のご尽力を賜わりますようお願い申しあげる次第であります。私どもとしても、そうした観点に立って、諸施策の拡充につとめ、新しい時代にふさわしい「木の国」づくりに一層努力してまいりたいと存じます。
おわりに今後における皆様方の一層の御健勝を祈念いたしまして、この輝かしい木材史発刊のごあいさつといたします。
昭和46年11月