竜門の各郷で此の内品質の最も優良なるものは川上郷産にして当時1ヶ年の全生産量は20,000駄で此の大半は当和歌山市に移出され、当時本市は吉野材とともに樽丸の集産地でもあった。其後、本市に於ても樽丸を製造するものが漸次増加した。此の樽丸の製造に用いる材は樹令60年以上の胸高周囲2尺5寸乃至4尺5寸位のもので、心材は淡紅色を呈し年輪は緻密で且つ其の巾も均一で木理が通直枝節の無い良材であることが第1要件であった。製作の方法は樹幹の根部より第1の枝のある所までを1尺8寸宛に鋸で切りこの小切る仕事を先山と言い其の小切った丸太を太さに応じて中心を通して適当な数に大割庖丁及び樫槌で柾目に割り、更に心材の外部2、3分程の辺材をのこしてそれより外部の辺材をワン曲せる庖丁で年輪に添って割り、取り去る。 外部の辺材は木皮丸(コワコル)と言い厚薄に従って極稀、稀の木皮(丸)に区別し箸、楊枝、折箱等の原料とし又1部運搬の不便な地に於ては辺材の薄いものを白丸とし砂糖桶を作るのに使用す。又其の厚いものは蓋丸とし四斗樽の蓋にし中心を除きたる心材の部分は更に之を2寸7厘の厚さに年輪の方向に沿って小割し、尚之を4つ割り其の内外面を(セン)を以て削り四斗樽の側に供す。又、枝、節の都合に依って、1尺5寸に小切り鮮美な心材部を巾4寸乃至6寸、厚さ1寸に仕立て底丸とする。之は四斗樽の底となるものである。樽丸は之を井桁状に積み重ねて2、3週間乾燥した後、品質を別けて(丸)に仕立て丸の直径は1尺6寸の竹タガで巻き其の棚数28棚展開3丈3尺6寸を有し、四斗樽6個を製作することが出来る。