10日も晴天であった。阿鼻叫嗅と焦熱地獄の夜が明けると殆んど全市が一面の焦土である。お城もない、駅もない、目ぼしい建物は何一つない。たゞ鉄筋コンクリートの残骸と、持ちこたえた火入らずの土蔵があちこちに散見されるだけの荒涼たる廃墟である。その火入らずの土蔵も内部の熱気で自然発火して思い出したようにごう音と共に屋根をぶち抜いて燃え上るのが時々見られる。昼頃になっても尚、全燼が燃え続け時々不発弾が爆発し焦土と熱気で迚も市内には入れない。紀の川の堤防には逃げのがれて来た牛馬が何頭も怯え切ったように草も喰まずにさまよっている。飼主も既に死んだのかも知れない。
私は責任もあるので午後意を決して地木社のある本町の丸正百貨店に向かった。散らばった電線や、瓦礫で足の踏み場もないくらいである。不発の焼夷弾が多数路面に突きさゝっている。コンクリートも焦げて沢山穴が出来ている。余熱で地下足袋の底が焼けるように熱い。小人町まで来ると町角で倒れた電柱の下敷きになって娘さんが焼け死んでいた。片原では風呂桶ほどの防火用水槽の中で2人の婦人が頭を突込んで焼け死んでいた。内川には老若男女さまざまの死体が或はうつむきに、或はあおむけに幾つも浮かんで流れて来る。中橋の詰には完全な防空服に身をかためた若い女が子供をおんぶして半焦げで死んでおり、近くのマンホールの中では数人が折重なって死んでいた。全裸、半裸の者も居る。漸くにして目指す丸正に辿り着いたが熱気で迚も入れない。私は地下室の入口を降りうるだけ降りて、じっと中を覗くと多数の白く骨だけに焼け上った焼死体が、丁度赤々と白熱に燃えさかった炭火の炎の上に並べら